[インドネシア視察レポート・後編]能代山本地域における「地域の人事部」が現地の職業訓練学校を視察いたしました
インドネシア視察報告の最終回となる本記事では、産業・工業分野における優れた人材を育成・輩出する2つの職業訓練学校について皆様へご報告いたします。
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ASTRAtech
組織概要
インドネシアの産業人材育成を目的として2000年に設立されたASTRAtechは、約20万人の従業員を擁するアストラグループの教育分野における「持続可能性へのコミットメント」の一環として運営されており、幅広い職業教育プログラムを展開しています。同校には現在、約2,000名の学生が在籍しています。
同校は国際基準を満たす優秀な卒業生を輩出し、現在、そして将来の産業界に対応する応用技術を開発することを目指しています。また、日本を含む多くの企業と連携し、産業界との結びつきを強化した実践的な教育を提供しています。
特徴
ASTRAtechは以下のような幅広い技術分野で教育プログラムを提供しています。
- 金型製作と設計、エンジニアリング設計、特殊用途機械の製造
- 産業オートメーションやデジタル化ソリューションを通じた先進的な技術教育
- 自動車および重機のメンテナンス、土木工学コンサルティングサービスを含む実務的な支援
- 精密部品の製造やソフトウェア開発など、技術革新を促進するプログラム
これらのプログラムを通じて、同校はインドネシアの産業基盤を支える高度な人材を育成しています。
視察のハイライト
視察では、広大なキャンパス内の教育現場を見学しました。生徒の皆様が旋盤や溶接機器を使用して金属加工を行う姿や、プラスチックのリサイクル加工、工場生産の効率化や安全性を自動判別するシステムの構築、人工知能の研究に取り組む様子を間近で拝見することができ、学生の皆さんが実践的なスキルを身につけるための充実した教育環境が整備されていることが伺えました。
溶接技術を実践的に学ぶ学生の姿
巨大な重機のメンテナンス
安全ヘルメットを着用しているかを判別しているシステム
得られた知見
ASTRAtechが提供する溶接や重機のメンテナンス整備などの教育プログラムは、能代山本地域で労働力不足が深刻な業界・業種において有効な解決策となり得ると感じました。また、現場の人手不足を補うだけでなく、高度な技術を持つ人材の受け入れを通じて、作業効率の向上や既存技術の革新などといった躍進の可能性も期待できると感じました。
事業説明とセレモニーの様子
Politeknik Industri ATMI
組織概要
Politeknik Industri ATMIは、2003年にインドネシアの工業化を支える高度な技術者を育成する目的で設立されました。理論と実践を融合させた「生産ベース教育訓練(PBET)」を採用し、産業機械、メカトロニクス、産業マネジメントといった分野で専門技術者を養成しています。設立以来、多くの卒業生が産業界で活躍し、インドネシアの発展に寄与しています。
Politeknik Industri ATMIにおける事業説明、および意見交換会
特徴
Politeknik Industri ATMIでは、ドイツ・スイス方式のデュアルシステム(学校と企業が連携して生徒を育成する職業教育システム)を採用し、理論と実践を融合させた教育を提供しています。これに加え、学生の道徳、責任感、共感力、イニシアティブ、他者との連帯感といった価値観の育成にも注力しており、人格形成を重視した教育を行っています。
同校は工業高等は産業界との密接な連携が特徴であり、工業団地内に位置する利点を生かして、企業ニーズに即した人材育成を行っています。また、生産基盤教育訓練(PBET)を通じ、学生が実際の産業環境で経験を積む機会を提供しており、卒業生への求人が卒業生数を上回るなど、業界からの高い評価を得ています。
視察のハイライト
こちらでもキャンパスツアーを行っていただき、生徒たちが旋盤や機械加工に取り組む環境を見学いたしました。生徒の皆様がチームプログラミングに取り組む姿や、センサー技術・ロボット開発などテーマとした卒業を行うラボの様子を拝見し、工業系教育の多様性と質の高さが際立っているという印象を受けました。
ずらりと並ぶ旋盤の機械
同校の代表者の皆様による事業説明と意見交換の場で能代山本地域における労働力不足や地域の課題について共有いたしましたところ、送り出した人材の受け入れ体制をしっかりと整備していただけるのであれば、同校も積極的に協力したいという前向きな意見が得られました。
得られた知見
Politeknik Industri ATMIは技術の習得だけでなく人格形成にも重きを置いた教育方針を持つ機関であり、能代山本地域においても、単なる労働力の補完ではなく地域社会に深く貢献できる人材を受け入れる展望を新たに見出すことができました。また、こうした優れた人材を輩出する機関から信頼を得て協力関係を結ぶためにも、地域内での受け入れ体制を整備することが極めて重要であると改めて強く認識する機会となりました。
視察全体を通じて
視察を通じて、参加者一同多くの刺激を受け、外国人雇用に対する考えをより前向きに持つこととなりました。すでに外国人材を雇用している地域企業の参加者からは、「生徒たちの日本語能力の高さと、日本で働くことへ対する強いモチベーションに感心した」という声が寄せられ、知識やノウハウを持つ企業にとっても新たな発見の多い経験となったのだと考えております。
また、Instagramを活用した求人活動を行う参加企業の担当者のもとには生徒の皆様から複数のフォローリクエストがあったり、HADETAMA社においては二次面接の開催につながるなど、人材確保に向けた具体的な進展も生まれました。「外国人材に対する不安や偏見を払拭し地域企業の新たな可能性を模索する」、「各機関との協力関係を構築する」という当視察の目的が十二分に達成され、地域社会の新たな未来を切り開く大きな一歩となったと感じております。
最後に、視察に協力し、あたたかく迎え入れてくださったPT.MINORI様、LPK HADETAMA様、ASTRAtech様、Politeknik Industri ATMI様、改めて感謝申し上げます。今回の視察で得られた知見を基にさらなる連携を図り、多文化共生社会の実現を通して地域の新たな未来を切り開くべく、研鑽を積んでまいります。